イケメンエリート、愛に跪く
舟はもう一度、愛を抱きしめた。
ハワイとは違う冷たい風が二人を包み込むと、一気に現実が押し寄せてくる。
それでも、舟は愛を玄関まで送った。
愛の両親に顔を合わせずに今日は帰りたい…
「愛ちゃん、またね」
舟はそう一言残して、タロウが待つ車に乗り込んだ。
立ち尽くす愛を見るのは辛いから、タロウにすぐに車を出してとお願いした。
タロウは何も言わず何も聞かず、車を滑らかに走らせる。
きっと、バックミラーに映る愛の姿をタロウの目は捉えているだろう。
でも、何一つ表情を変えないタロウを、舟は心から有り難いと思った。
舟は振り返る事なく、流れゆく外の景色をずっと見ている。
子供の頃に、愛と一緒に笑いながら駆け抜けたこの小さな道を、大人になった舟は複雑な思いで見つめていた。
愛は舟の車が見えなくなるまで、寒空の下に立ち尽くしていた。
胸が張り裂けそうで、苦しくて苦しくて仕方がない。
出迎えてくれる両親の前で泣きじゃくるわけにもいかず、愛は玄関の前で何度も深呼吸をした。
「ただいま~」
愛の声を聞きつけ、奥の方からお母さんが走ってくる。
「愛、おかえり、舟君は?」
愛はその言葉に涙が出そうになる。
「舟君、もう帰っちゃったよ」
「あら、そうなの…
舟君にお礼が言いたかったのに…」