イケメンエリート、愛に跪く



愛は昼過ぎにやっとベッドから起き、母達の待つリビングへ下りた。
でも、リビングには誰も居ない。
辺りを見渡してみると、キッチンのカウンターの上に置き手紙があった。

“お父さんと隣町のスーパーまで買い出しに行ってきます  母より”

愛は少しだけホッとした。
まだ何も心の整理がついていない。
私の感情に身を任せてしまえば、私は明日にはこの家から出て行く事になる。
でも、それはやっぱり無理な事…
お父さんもお母さんも心にできた傷はまだ癒えていないのに、これ以上寂しい思いをさせるわけにはいかない。

愛はソファに座って見もしないテレビをつける。
頭の中は舟の事でいっぱいで、何をしてもどこにいても舟の笑顔がつきまとってくる。
哀しいとか寂しいとか、そういう感情は、究極まで辿り着いたら無感情になってしまうらしい。
でも、無には涙がまとわりつく。
涙だけは絶えず溢れ出る。
私の空っぽの体の中には舟の記憶しかなくて、そしてその記憶は涙となって、何も決められない私を責めるように流れ続ける。


愛は、気分転換に、早めに家を出る事にした。
外は昨日と違いとてもいい天気だ。
街をぶらぶらしながら、今の自分の正直な気持ちにちゃんと向き合おう。

舟君はまだ日本にいる…
会いたくなったら、まだ会える場所にいる…

そんな今だからこそ、もう一度しっかり考えよう…



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