イケメンエリート、愛に跪く



愛は下を向いたまま、亮の話を聞いていた。
隣でお母さんのすすり泣く声がかすかに聞こえる。


「俺はお姉ちゃんが子供の時から舟君の事が大好きだったのは知ってたし、母さんから舟君が戻って来てお姉ちゃんに笑顔が戻った事も聞いてたから、よろしくお願いしますって言ったんだ。

そしたら、舟君が、でも、お姉ちゃんは自分は幸せになっちゃいけないって思ってるって…
周りの家族や友達を、特に、亮ちゃんをひどい目に遭わせたから、自分だけが幸せになるなんて許されないって…

亮ちゃんが、本当にお姉ちゃんに幸せになってもらいたいって思ってるんだったら、それをお姉ちゃんに言葉で伝えてほしいって、舟君に頼まれたんだ。

だから、慌てて戻って来た」


愛は肩を震わせて泣いた。
あの事件以来、皆、腫れ物に触るように愛に接してきた。
愛にあの頃を思い出させないように、その事に関わる全ての話を封印してきた。
ボロボロになった愛を誰も救う事ができず途方に暮れていた時、舟が現れた。

愛が大好きな家族に聞きたくても怖くて聞けなかった事を、頼みもしないのに舟は普通に聞いてくれた。


「お姉ちゃん…
確かにあの時俺は内定していた会社に突然干されたけど、だけどお姉ちゃんの事を一度も責めた事はないよ。
それより、ずっと、お姉ちゃんの事が心配だった。
心も体もボロボロなのは分かってたし、俺の顔を見てお姉ちゃんが苦しむのも分かってた。

お姉ちゃん、舟君に言われた通り、ちゃんと言葉で言うからね。

お姉ちゃんには、誰よりも幸せになってほしい…
っていうか、お姉ちゃんが幸せにならないと、この家族に本物の幸せは訪れないんだ」





< 144 / 163 >

この作品をシェア

pagetop