イケメンエリート、愛に跪く



舟はタロウを10分以上も待たせてしまい、本当に最悪な気分だった。
何度も謝る舟に、タロウは乾いた笑顔を見せ高速を飛ばし始める。

舟はベンツの心地よいシーツに身を任せ、目を閉じた。
こんな最悪な朝を迎えたのに、それでも僕は神様に願っている。どうか愛ちゃんを僕の元へ連れてきて下さいと…

舟はこのどんよりとした東京の空を目に焼き付けた。
もし、愛ちゃんが今日空港に来なければ、僕はしばらく日本へ来る事はないだろう…

その時は、バイバイ、僕のふるさと…




舟はタロウと別れ、空港の中へ入って行く。
人を見る余裕がない。
とにかく搭乗券の手続きを済ませるために、航空会社のカウンターへ急ぐ。

僕は愛ちゃんと空港で待ち合わせをしたけれど、特定な場所を何も伝えていない。
このだだっ広い空間の中で僕は愛ちゃんを捜す事ができるのだろうか…

全てにおいて後ろ向きな僕は、もう限界にきていた。
昨日の酒もまだ抜けきっていないせいか、頭痛までしている。

とりあえず航空会社のカウンターの近くで愛を待った。
辺りを見渡すけれど、愛のいる気配はない。
絶望のどん底というのは、きっと、僕の今だろう。
舟は時計を見て、搭乗口に入る事にした。


「舟く~ん、待って~~」


舟が声のする方に目をやると、そこには慌てて走ってくる愛が見える。


「……愛ちゃん」





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