イケメンエリート、愛に跪く



愛は舟と向かい合わせでたくさんの話をしながら、フレンチのフルコースを堪能した。

あの家の前で大勢のレポーターに取り囲まれて無理やり開いた会見から、もう半年が経った。
あれ以来、外食なんてした事はなかったし、ましてや食べ物を美味しいと感じる事は皆無だった。

でも、今、舟の温かい取り計らいで久しぶりに幸せな時間を過ごしている。

一流シェフが作る真心のこもった料理は、本当にとても美味しく素晴らしかった。

舟は社長室にあった家族の写真を、この店に持って来ていた。
家族の話をするには、これがないと僕も上手に説明できないと笑いながら。

舟は最後のデザートを食べ終えた愛の手を取って、プールのある外のスペースへ連れて行く。
二月の真冬の時期だというのに、ここ最近の東京はとても暖かかった。
今日も厚手のコートは要らないくらいにポカポカの春の陽ざしだ。

二人でプールサイドを歩いていると、スタッフが何やら洒落た椅子をプールの縁にセットしている。


「お客様、こちらへお座りください」


舟と愛はお互い顔を見合わせ、スタッフの言う通りにその椅子に腰かけた。


「このプールは温かいお湯になっています。
特に今は二月なので熱めに設定しておりますので、足湯にどうぞ」


でも、愛は自分の足元を見て小さくため息をついた。
今日はセーターとタイトなクロップドパンツという格好のため、肌色のストッキングをはいている。

そんな愛に気付いたスタッフは笑顔で耳打ちしてくれた。


「あの奥のドアは女性のための更衣室になっております。
簡単な着替えであれば準備してありますので、ご安心下さいませ。
靴下やストッキング等も備えてあります」


舟は二人のやりとりを優しい眼差しで見ている。

そして、先に靴と靴下を脱いで足をプールに浸した舟は、最高に気持ちのいい顔をした。



< 34 / 163 >

この作品をシェア

pagetop