イケメンエリート、愛に跪く
愛は笑いながら隣に座る舟を見ると、舟は天井を仰いで大げさにため息をついている。
「愛ちゃん、もうそろそろ出ようか…?
これ以上ここに居たら、何言われるか分からないからさ」
舟はそう言うと、皆に帰るねと目で合図をする。
愛が感心したのは、そんな舟を皆が温かく送り出してくれる事だった。
そして、愛にもまたおいでと声を掛けてくれる。
この世の中に、頭が良くて稼ぎがよくて究極のイケメンでそれでいて性格がいい人が、舟以外にもいるんだと愛は感動した。
そういう余裕がある人間は、他人の口に出したくない過去だって笑顔で受け入れてくれる。
愛はお店を出ると、無意識の内にマスクをしてしまう。
やはりまだ人混みに素顔で出るのは怖かった。
すると、舟はそんな愛のマスクを愛の了解も得ずにサッと取った。
そして、通路の隅に置いてあるゴミ箱にポイっと捨てた。
「…舟君」
愛の発した言葉にかぶせるように、舟はそっと耳打ちをした。
「愛ちゃん、そんなに日本が生きづらいのなら、僕と一緒に外国に行こうか?
冗談じゃないよ… 僕は本気だから」
そして、舟は愛の腰を引き寄せ、愛を守るように人混みを歩いた。
「今から、凪の家で飲み直そう。
愛ちゃんに渡したい物もあるし、ね?」