イケメンエリート、愛に跪く
「でも、日本ではおじいちゃん達がその呼び方を反対したんだ。
だから、今でも、おじいちゃん達がいる場所ではちゃんと日本語で話すし、母さんって言うよ」
愛は小さな頃の舟を思い出していた。
喋り方や場を和ます雰囲気は、やはり何も変わっていない。
「舟君はおじいちゃん子だったもんね…」
舟は目を細め、間近に見える東京の夜景を眺めている。
こうやって愛と二人っきりでいる夜は、何だか懐かしくて心地よかった。
「おじいちゃんは、唯一、僕にとっての日本だった。
母さんは100%アメリカ人になるように僕を育てたけど、でもおじいちゃんは僕に日本を忘れるなって言うんだ。
僕が唯一日本語を話せるのは祖父母だけで、だから、僕の話す日本語は若者らしくないってよく言われる」
愛はクスッと笑った。
確かに舟の日本語は自分を僕と呼ぶ事もあって、今の若者とは少し違っているのかもしれない。
でも、それが舟らしさであり、愛にとっては一番の魅力だった。
「私の近所から、まず最初に舟君が居なくなって、しばらくしたらおじいちゃま達も居なくなった…
舟君のおばあちゃまが大切に育てていたバラの木の根や、プランターに咲いていたお花を何個か頂いて、そしてさようならを言って私や私の家族はすごく寂しい思いをしたけど、でも、舟君がおじいちゃま達のおかげで何も変わらずに育った事は、何だかお姉さんみたいな気持ちで本当に嬉しい…」