イケメンエリート、愛に跪く
愛はグラスに残っていたワインを一気に飲み干した。
そして、そんな愛の様子を静かに見ている舟の方へ向き直す。
「私はあんな不祥事を起こして会社にすごく迷惑をかけたでしょ。
だから、会社は私を地方のラジオ局に左遷した。
表向きは左遷だったけど、実際はクビと一緒だった。
だけど、二か月程前に、テレビ局のアナウンサー室に戻って来てほしいって言われて、柏木さんのような実力のある人を手離すのはもったいないって…
すごく嬉しかった…
体はまだ本調子じゃなかったけど負けず嫌いの性格も災いして、すぐに戻りますって返事した。
それがこの間の話…
まだ、アナウンサー室に戻って一か月も経ってない。
戻って来たばかりの私が、そんなすぐに辞めるわけにはいかないの…」
愛は息もつかずに話したせいで、何だか疲れて小さくため息をついた。
舟君がこの話で納得してくれればいいけど…
でも、舟は何も言わずに愛を見ている。
目を細めて、何も納得していないような顔で。
「で? 会社での愛ちゃんの現状は?
今、そのアナウンサー室でどういう仕事を任されてるの?」
舟は愛を責めているわけではない。
でも、あんな仕打ちまでされて、そのクソ会社を守る愛の心境が分からなかった。
大体、どんな現状なのかは想像はつく。
でも、それを愛の口から聞く事が必要だった。