イケメンエリート、愛に跪く


愛は小さく深呼吸をした。
舟の前で過呼吸を起こすわけにはいかない。
でも、今の自分の現状を他人に話す事は、それほど勇気のいる事だった。


「今の… 今の私の現状は最悪で…

会社にとっては視聴率アップのために斬新なアイディアなのかもしれないけど、今それでちょっとした騒動になってて…」


愛は自分の右手で左手を握りしめた。
精神のバランスが崩れそうになる時は、自分で自分を守るしかない。


「会社は何をしようとしてるの?」


舟はできるだけ優しい口調でそう問いかけた。
愛の様子は、尋常じゃないほどに怯えている。
その現実だけでも、舟にとっては苦痛だった。


「何かね…
私をMCに起用して、特番を考えてるみたいで…
まだ復帰して一か月も満たない私には、そんな大きな仕事は到底無理で、アナウンサー室の室長も愛さんを人寄せパンダにしたくはないって言ってくれたんだけど、上が決定したらそれは私達が何を言っても通用しない。

今はね、制作部長に考える時間をもらってる…
でも、もう返事をしなきゃならないくて、あ、もちろん断るつもりでいるよ。

こんな状況の私がMCなんて…
みんなの反感を買うのも分かってるし、まずは自分に全然自信がないから…」



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