イケメンエリート、愛に跪く
舟は愛を抱きしめながら、でも、手は拳を握りわなわな震えた。
こんなにもボロボロになっているなんて、夢にも思わなかった。
「体は…?
まだ、治ってないのか…?」
確か、愛は体調を崩して入院したと聞いていた。
舟は大切な宝物を誰かに壊されたような、そんな悔しい思いが頭を渦巻く。
「パ、パニック症候群みたいで…
人によって頭痛だったり立ちくらみだったり症状は様々なんだけど…
私は、過呼吸になっちゃうんだ…」
愛は不思議な感覚に驚いていた。
あの時発作が確実に起きたはずなのに、紙袋の応急処置も薬も飲まないままで私の体はもう平常に戻っている。
初期の頃は、あれだけ涙を流したら発作は増々ひどくなった。
でも、どういう事だろう…
舟に抱かれただけで、それだけなのに、あの苦しい発作は姿を消した。
舟は自分の腕の中で、落ち着きを取り戻す愛を静かに見守った。
愛の瞳から涙が消え激しかった呼吸がゆっくりといつものリズムを刻むようになった時、舟はまだしっかり愛を抱いたまま静かに耳打ちをする。
「愛ちゃん、一つだけでいいから…
僕の言う事を聞いて…
明日、退職願いを会社に出してほしい」