イケメンエリート、愛に跪く
愛は舟に抱きしめられたまま、首を横に振った。
「無理だよ、舟君…」
舟は更に強く抱きしめる。
「愛ちゃん、僕を信じてほしい…
まずは、前に進むためには勇気が必要なんだ。
愛ちゃんはその会社に飼われている人形じゃないだろ?
愛ちゃんの本気を見せなきゃダメだ。
まずは、退職願いを出してその意思を会社に伝える。
その時点で、愛ちゃんを特番に使う事も考え直すはずだ。
絶対、上手くいくから…
僕を信じて、絶対大丈夫だから…」
いいや、僕が何とかする。
愛ちゃんの知らない所で、僕がちゃんと愛ちゃんを守るから…
愛は舟の胸の中で舟の心臓の音に耳を澄ます。
私にとって勇気がいる事は、会社に退職願いを出す事よりも、また誰かを信じる事だ。
でも、舟君の心臓の音は私に癒しを与えてくれる。
「…うん、分かった。頑張ってみる。
この勢いのまま、何も考えずに退職願いを出す…
舟君を信じてみる。
でも、もし、上手くいかなかったら、また今日のように抱きしめてね…」
大丈夫だよ……
何があっても絶対に上手くいくから…
僕に失敗なんてない…
だから、愛ちゃんは普通に時を過ごしてて…
舟は愛から少しだけ体を離し、愛の顔を覗き込む。
やるせない気持ちは隅に置き、愛に精一杯の笑顔を見せる。
「まずは、上手くいかない事は絶対ないから…
あと、抱きしめるのは、僕の方がお願いしたいよ。
僕は365日、毎日愛ちゃんを抱きしめたい…
きっと、僕の方がはるかに、愛ちゃんがいないと生きていけないみたいだ…」