イケメンエリート、愛に跪く
愛は舟に抱きしめられたまま、舟の背中に手を回した。
あんなに小さかった舟君が、今では私を人生最大のピンチから救い出そうとしてくれる。
できるかできないかは別として、その心意気だけで本当に嬉しい。
おっとり顔の優しい目をした小柄な少年は、私の知らない間にたくさんの知識と武器を身につけてたくましい青年になった。
そんな舟君が、今、私の目の前にいる奇跡に感謝しなければ…
「舟君…
日曜日は何か用事が入ってる?」
舟は愛の顔を覗きこんで何で?という顔をしている。
「舟君のおじいちゃんが住んでいた家を見に行こうよ。
他の人が住んでるけど、まだ残ってるんだよ。
私の実家にも顔を出してもらえれば、お母さんが泣いて喜ぶかも」
舟は愛にハイタッチをする。
「行きたい!
え? まだ、あの家残ってるんだ?
最高だよ、行こう、日曜日、絶対に行くよ」
舟はそう言いながら、でもある事を思い出した。
「愛ちゃんは実家に住んでるんだったよね?
じゃ、僕はタロウさんに送ってもらうから大丈夫。
僕のおじいちゃんの家で待ち合わせをしよう」
舟は本当に嬉しかった。
祖父母がアメリカに渡ってきて日本に全く帰らなくなってからも、あの家の事はよく思い出した。
季節は必ず夏で、祖父母の家の庭には背が高くなったひまわりが咲いていて、そして必ずその庭に愛ちゃんがいた。
僕にとって、手が届きそうで手の届かない幻のような夢だった。
というか、あの子供の頃の日本での日々は夢だったのかもしれないと、真剣に思っていたくらいだから。