イケメンエリート、愛に跪く



日曜日になり、愛は待ち合わせに指定したカフェで舟を待っている。

愛は待ち合わせの時間より、かなり早くにこの店に着いた。
それは、舟が来るまでの間、室長に退職願いを出せなかった事の言い訳を考えたかったから…

ちゃんと書式に合わせて退職願いは準備した。
愛は土曜日は午前出勤だったため、何も考えず朝一番で室長に渡すつもりでいた。
でも、中々、勇気が出ず、そうこうしていると室長も午前で帰ってしまった。


「ふぅ~~」


愛はその事を舟にどう報告しようか悩んでいる。
昨日、勇気がでなかったものが、月曜日に劇的に勇気が出るとも思えない。
愛はコーヒーを飲みながら、また同じようにため息をついた。


「愛ちゃん!」


窓際の席に座っている愛に、舟は外から呼びかけた。
今日の舟は、休みのせいもあり凄くラフな格好をしている。
ジーンズに黒のニットのセーターを着て、大きめのグレーのダッフルコートをはおっていた。

舟は最高の笑みを浮かべて、愛の隣に座る。


「愛ちゃん、もうコーヒーはいい?
早く出かけようよ。

この駅の雰囲気も何となく記憶の片隅に残っていて、それだけで僕は涙が出そうなんだから」


舟はそう言うと、愛の肩を自分の元へ引き寄せて大股で歩き出した。
もし、この界隈で、高市さんとこのお孫ちゃんを覚えている人がいたとしても、今の舟君を見てそれがその子だとは思わないだろう。

それだけ、舟君は、いい男になっている。
背が高く涼し気な顔の完璧なイケメンエリートに…




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