イケメンエリート、愛に跪く
「舟君、その二軒隣の私の家は覚えている?」
愛は舟の満足いく顔が見れた後、そう声をかけた。
舟はタブレットをリュックにしまうと、愛の家の方に顔を向ける。
すると、一気に押し寄せる懐かしい記憶に頬が緩み出した。
愛の家は大きな家だった。
確か、子供は愛と年の離れた弟が一人、そして愛のお父さんとお母さんはただただ優しかったのを覚えている。
「覚えてるよ。
愛ちゃんの部屋でオセロをした事を思い出した。
愛ちゃんの弟がすぐ邪魔しに来るんだよな」
舟は歩きながら、どんどん思い出が蘇ってくる。
確かに、僕はこの場所で生きていた。
愛が自分の家のインターホンを鳴らすと、すぐに愛のお母さんが飛び出してきた。
口に手を当てて、もう瞳は涙でいっぱいになっている。
「舟君……
こんなに大きくなって……」
愛のお母さんは思っていたよりも老けていた。
髪には白髪が混じり、上品な雰囲気は変わらないが少しやつれているように見える。
その時点で、勘のいい舟は気づいてしまう。
愛の世間を賑わしたあの騒動は、愛だけではなく愛を愛する全ての人達を地獄に突き落とした。
愛の両親も愛と同様、心に大きな傷を残して今を精一杯生きている。
「お母さん、感動的な再会は後にして。
外は寒くて凍えそうなんだから」
愛はそう言うと、舟の前に内履きのスリッパを置いてくれた。