イケメンエリート、愛に跪く
愛の家は何も変わっていない。
舟の記憶は湯水のように湧き上がっていて、今では廊下の床の質感や応接間にあるピアノのカバーの色まで思い出していた。
確か、愛ちゃんのお母さんはピアノの先生で、でも愛ちゃんはピアノは嫌いだと僕にこっそり教えてくれたような…
舟はそんな事を思い出しながらフッと笑った。
この場所は僕を懐かしい子供の頃の時間に戻してくれる。
「舟君、こんなに立派になって…
愛から少しは話しは聞いてるけど、でも、あんなに小っちゃかったのに…」
愛のお父さんまでソファに座っている。
舟は恐縮しながら、自分の自己紹介を簡単にした。今、どこで働いていて、どういう仕事をしているのか、そして祖父母の事や母の今の現状も話した。
愛と愛の両親は目を潤ませて、僕の話を喜んで聞いてくれた。
すると、愛のお母さんが棚の上に飾っている銀色のフレームの写真立てを、舟の前に持って来た。
「これは、舟君が日本に遊びにきた最後の年に取った写真よ。
舟君のおじいちゃまの家の庭で、二人が仲良く遊んでいるところを私が黙って撮ったの。
お庭に咲いているひまわりと青い空と、二人の笑顔がとっても素敵で、私の一番のお気に入りの写真…
でも…」
愛のお母さんはそう言って口ごもった。
「でも…?」