イケメンエリート、愛に跪く
舟はただ首を横に振るだけだった。
この傷ついた家族を救うには、愛を元の明るい愛に戻すまでだ。
舟の裏の顔の容赦ない鋼のナイフは、もう切っ先をターゲットに向けている。
舟は愛の家でお昼ご飯を頂き、そして夕方までまったりと時間を過ごした。
「おじさん、おばさん、今日はお世話になりました。
すごく楽しかったです。
今度は祖父母も連れて、ここに戻ってきますね」
舟は自分でそう言いながら、バカみたいに胸が込み上げる。
…おじさん、おばさん、もう少し辛抱してください。
僕が、必ず、愛ちゃんの笑顔を取り戻しますから…
舟と愛は、朝の待ち合わせに使ったカフェでまたコーヒーを飲んでいる。
タロウが舟を迎えに来るのに、少々時間がかかるという事だった。
愛は舟に退職願いの件をどう伝えようか、未だに悩んでいる。
そんな愛の気持ちを知ってか知らずか、舟はまた唐突に聞いてきた。
「愛ちゃん、退職願いちゃんと出せた?」
愛は舟の顔を見ずにコーヒーをテーブルに置き、顔を横に振った。
「昨日は出せなかった…
明日こそ出すつもりでいるけど、中々勇気が出なくて…」
舟はフゥとひと息つく。
「明日には絶対に出して…
絶対に出す事、それも午前中の内に。
絶対だよ、愛ちゃん、信じてるから…」