イケメンエリート、愛に跪く
タロウは愛の会社の最寄りの駅に立っている。
メッセージやLINEを送るにも舟にしか教えていないアドレスを俺が使うわけにはいかないし、舟さんに言わせれば愛さんは仕事中はスマホはあまり見ないという事だ。
今日は愛の出勤が遅いという話は、昨日の車の中で聞いていた。
土曜日出勤の人間は、月曜日は11時までに出勤すればいいのと嬉しそうに言っていたから。
タロウがしばらく駅の改札で待っていると、愛は年の若い女性と歩きながら改札から出てきた。
タロウは天を仰ぐ。
何で一人じゃないんだよ…
「愛さん!」
タロウはニット帽をかぶり普通の好青年を装い、愛に声を掛けた。
「タ、タロウさん、どうしたの…?」
愛はすごく驚いた顔をしている。
誰だって驚くだろう…
こんないかつい怪しげな男が、さわやかなオフィス街の駅前で愛さんを見かけるなんて絶対に起こらない偶然だから。
「愛さん、ちょっといい? 急用があって」
タロウが愛を呼ぶと、愛と一緒にいる童顔の女の子が警戒心丸出しで必死に愛を守っている様子が分かる。
「あ、美弥ちゃん、この人、知り合いなの…
先に行ってていいから、ごめんね」
愛は怪訝な目をタロウに向けている美弥にそう言うと、美弥を優しく前へ突き出す。
「柏木さん、本当に大丈夫ですか…?」
美弥が小さな声でそう言うと、愛は笑顔で頷き行っていいよと目で合図した。