イケメンエリート、愛に跪く



愛は美弥を見送ると、隅に立っているタロウに近づいた。


「タロウさん、何かあったの…?」


愛は舟に何かあったのではないかと、心底恐怖に怯えている。


「愛さん、退職願い、ちゃんと持ってきた?」


愛はタロウの可愛い笑顔に面食らって、驚きも忘れ目を丸くしてうんと頷いた。


「良かった…
舟さんが心配してたから。
愛ちゃんは、ああ見えておっちょこちょいだからって」


愛はタロウの笑いながら話す素振りに気を取られ、こっちもつい笑顔になる。


「大丈夫だよ、ちゃんと持って来てるから…」


「じゃ、愛さん、会社に行ったらそのまま室長に渡す事を忘れないで。
絶対だよ」


愛はタロウの笑顔にまだ騙されているのか、何だか今ならそうできる気がしてきた。


「うん、分かった… 頑張る。
だから、タロウさんは心配しないでいいから」


愛はそう言うと、会社へ向かって軽快に歩き出した。
タロウはその後ろで、天を仰ぎ絶対に頼むぞと何度も祈る。

愛が遠くに見えるようになった時、タロウの後ろで誰かが大きく咳払いをした。
タロウが振り返ると、そこには愛と一緒にいた美弥が仁王立ちして立っている。


「ねえ、あなた何者ですか?
愛さんに何の用事??」


タロウは切れ者とよく言われる。
そのいわれは、どんな状況でも、ピンチをチャンスに変える不思議な能力が備わっているから。


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