イケメンエリート、愛に跪く
「じょ、条件と言いますと…?」
局長は冷静を装いながら、舟にそう質問した。
「はい、実は、ちょっと個人的な話なんですけど…」
舟の顔はまだ穏やかだ。
その人の良さそうな顔に、一瞬不安に陥った獲物どもは安堵のため息をつく。
ジャスは追い込まれていく獲物どもが気の毒でしょうがなかった。
「僕は子供の頃は日本で育ちました。
母は先にアメリカへ行ったため、祖父母の家でしばらく暮らしていました。
祖父母の家の近所に僕より一つ上の女の子が住んでまして、その子は本当に僕に親切にしてくれて、その子がいたから僕は母のいない日本で楽しく過ごせたと言っても言い過ぎじゃない。
日本を離れた僕は、いつか必ずその子に恩返しをしたいとずっと考えてました」
局長を始め他の面々も、そこにどういう意味が含まれているかまだ想像もつかない。
「その彼女は、長年、勤めた会社に裏切られ、辛い思いをしていると聞き、僕は居ても立っても居られなくなってる」
関東テレビの人間は舟を信用しきっているせいで、まだ誰も何も気づかない。
「その方は東京にいらっしゃるんですか…?」
局長が何の気なしに聞いた言葉が、舟の表情を鬼に変えた。
「ええ、東京にいます。
その会社は関東テレビ、その彼女の名前は、柏木愛」
一瞬で場が凍りついた。
まるで舟が、ドライアイスの息を吹きかけたように…