イケメンエリート、愛に跪く
あれほど笑顔を絶やさなかった局長の顔が、挙動不審者のように蒼白になっている。
他の関東テレビの人間も、下を向いて固まったまま何も言わない。
舟はもう以前の舟の顔ではない。
声を荒げるでもなく酷い言葉を吐き捨てるわけでもないのに、舟の目に見えない迫力は空振のごとくこの部屋の人間を覆いつくす。
ジャスはどこかの劇場の観客のように、この成り行きを傍観していた。
「僕は日本に住んでいるわけではないから、愛さんのスキャンダルを知ったのは最近です。
ニューヨークに住む日本人の友人にその話を聞きました。
今回、僕が長期の来日をするにあたり、この一連の騒動をあらゆる視点から洗いざらい調べさせてもらいました。
酷いですね… 関東テレビさん…
ま、どこまで会社が絡んでいるのかは知りませんが…」
すると、局長が小さく咳払いをして周りの人間を見た。
「あ、あの、その柏木さんから何か聞かれてますか…?」
舟は深くため息をついた。
この話次第では、この契約を破棄する事も大いにあると考えながら。
「彼女は何も言いませんよ。
逆に、今でもこの会社を守っている…」
それ以降、関東テレビの人間は誰一人口を開くことはなかった。
舟が切れ込みを入れとようしているその問題は、きっと、下部の社員には開けてはならない箱なのだろう。