イケメンエリート、愛に跪く
舟は口調は柔らかいけれど、かなり強引な事を言っている。
愛にしてみれば、まだ会社を辞めれたわけでもないのに海外旅行なんて考える余裕もない。
「舟君…
それは、会社をちゃんと辞めてから考える。
それと、いきなりハワイは、ちょっと無理かもしれない…
お金的にも… 正直に言っちゃうけどね」
愛は逆に舟の手を握りしめてそう言った。
ありがとうの気持ちも込めて。
掘りごたつの上には、愛が頼んだきりたんぽ鍋がグツグツ煮えている。
愛はもうその話はお終いと言わんばかりに、小皿に鍋の具材を取り分け始めた。
愛は舟の顔を見た。
まだ、納得できない顔で愛をジッと見ている。
「いつか…
いつかは行きたいと思ってるよ…
もう少し、私の体や気持ちに余裕ができて、お腹の底から笑えるようになったら…
今は、まだ、全てにおいて余裕がなくて。
いいな~、行きたいな~とは思うけど、その一歩が踏み出せない。
ごめんね…」
愛は笑顔で舟に取り分けた小皿を渡した。
舟の目が細くなっていくのを気にしながら。
「愛ちゃん、僕達の今にいつかはないんだ。
いつかなんて言ってたら、楽しい事も嬉しい事も遠くへ逃げてしまう。
全てにおいて余裕がないんだったら、それは全然問題ない。
僕がいるのを忘れないで。
とにかく来週の頭には出発するから。
一歩が踏み出せないんだったら、僕が無理やり連れて行くよ」