イケメンエリート、愛に跪く
日曜日の朝、愛は、舟達の迎えの車を待っていた。
舟はスーツケースだけを持てば大丈夫と言ったけれど、生真面目な愛の性格はそういうわけにはいかない。
貯金からお金をいくらか下ろし、できるだけ舟に迷惑をかけないようにと思っていた。
愛が自宅の玄関の前で待っていると、タロウが運転するベンツが見えた。
車が家の前に着くと、舟はわざわざ車から降りてくる。
舟は、見送りのために、玄関の外に出ていた愛の両親に丁寧に挨拶をした。
「愛ちゃんを少しの間、借りますね。
ハワイのいい気候と僕の祖父母の笑顔で、愛ちゃんはきっと元気になると思います。
たくさん写真を撮ってきますから、おばさん達も、楽しみに待ってて下さいね」
舟の屈託のない笑顔に、愛の両親は涙を浮かべている。
救世主とは舟の事だと心から感謝しながら。
愛はタロウの運転する車の中で、ある事を思い出した。
「タロウさん、そういえば…」
タロウは愛のその言葉に、異常な程に反応した。
バックミラー越しに愛を見て、とりあえず微笑んでみる。
「あの日、タロウさんと駅で会った後、美弥ちゃんと話したんだね」
タロウはうんともすんとも言わずに肩をすくめる。
「美弥ちゃんって?」
舟が愛にそう尋ねて、二人で美弥の事で盛り上がっている。
「タロウさん、美弥ちゃんからね、もしタロウさんに会ったらって伝言を預かってるの」
タロウは運転するのに忙しいふりをして、え?みたいな顔をする。
「約束破らないで下さいねって。
ちゃんと、約束は守って下さいって」
愛がそう言うと、また舟が食いついて理由を聞いている。
キャッキャと嬉しそうに話す二人を横目で見ながら、タロウは大きくため息をついた。