ピエロ

来たる未来。

私は死んだ。
正確には死ぬ事ができたというべきか。

気づいたら、知らない世界に放り出されていた。

大多数の中で孤独を感じていた私は、気づけば無の中の孤独へ連れていかれていたみたいだ。
どうしよう。

孤独と感じる心までも孤独になった。
とにかく、歩いた。

そしたら、1人の女性を見つけた。
何やら、人と話しているようだった。
その片割れの人が車に乗り込み、走り出すのを見てから、私は走っていった。

大声で呼びかけ、驚く顔を見せるその女性に尋ねた。
「ここはどこですか!?」
少し困った顔をするその人は亜希さんというらしい。

何かを諦めたように、微笑む。
その人は私には希望に見えた。

人は孤独を抱えると、希望を見つけたがるらしい。

私は元来、それなりに笑ってそれなりに楽しく、それなりに充実した日々を送っていた。

それなのにいつからだろうか、それなりを超えるそれなりの人に囲まれ、出処の分からぬ劣等感に苛まれ、必要のない人間だと自分を決めつけてしまったのは。

手首を切った時、悲しみが外に出ていった気がした。
かと言って、喜びが残る訳でも無かったのだけれど。
死ぬってこういう事かって思えると思ってた。
だからこそ、今この意識がある状態が不思議だ。

死ねたのだろうか。
それからの日々はって言っても短い間だけど、それなりに楽しかった。
散歩したり会話したり、食事したり。
生きてるってこういう事かと、思えた。

でも、気づいた。
亜希さんは私とは全く違う人であると。

何故ならば、あの人は生きてるのか死んでいるのか、それを考えながら、生きている。

私は違う。

私は生きているのか死んでいるのか、それを考えながら、死んでいる。

きっと、その違いは決定的にこの世界を変えている。
亜希さんはまだきっと死んでない。

私は確かに死んだ。
それだけでも凄い差はあるはずだ。

だから亜希さんはこの世界に居ても、生き生きとしているのだろう。

余裕があって、物怖じしない素敵な女性だと思う。
それは自分が死んでいないと心のどこかで知っているから。

私は亜希さんと離れる事にした。
もちろん、1人になるのは怖い。

それ故に、亜希さんには別れを告げないままにした。
きっと別れを告げれば、亜希さんは説得してくれるだろうけど、孤独の怖さがそれに甘えてしまうから。

1人になって感じた孤独は確かに誰かと生きた記憶でもあると思う。
そう、私は信じて消えたいと願ったのだから。

私が生きる未来はもう来ない。
来なくていい、そう願ってもまた訪れる
来る未来。私はもうそこに居ないのに。
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