ピエロ
目を覚ますと、私は部屋にいた。
「やっぱり夢だったか!」
私は喜んだ。
そう喜んだのも束の間、
ピーンポーンと鳴る。
「はーい」
私は玄関に出ると、あの運転手が居た。
「おはようございます、ゆっくり寝れましたか?」
そう微笑みながら言う運転手。
私は絶望に似た驚きで返事もせずにただ立っていた。
「では出かけましょう、案内しますよ。表で待っていますので」
と半ば強引に準備を促し、外へ出た。
外の世界に待っていたのは私の家の周りとは全然違う、と言うよりは私の知っている世界とは違う場所であった。
どうやら部屋だけは私の部屋を再現しているらしい。
街にあるものは私の知ってる世界とはなんら変わらないが、働く人はロボットが多く人はあまり居ない。
不思議に思い、街を案内するタクシーの運転手に訪ねた。
「人があまり働いてないみたいだけどなんで?」
タクシーの運転手はこの問いに少し笑いながら答えた。
「ロボットがやれば、人がやらなくていいではないですか、それだけの事です。」
理屈は分かる。だが、ロボットが働けば人の職が無くなるではないか。
その事も問うと
「まぁその通りなんですがね。なんせ人が働くというのは効率が悪いんですよね。」
酷く合理的な考えらしい。
この後言われた事を簡単にまとめればこうである。
<あなたの世界では人は働く事が普通とされている。それが間違いなんだ、働くのには意味があって、その意味を効率的にこなせるのは一握りの人と、多数のロボットである>
ということらしい。
異論はあるが、うまく言葉に出来ない。
更に運転手は
「ここでは物事の根本的な害は何かを考えて生きているのですよ」
と言う。
この世界には政治家は居るが、それは飾りで実質的にはデータを持つロボットが統計やらなんやらを出し、いかに効率的かつ「正しい」判断を下すらしい。
なんだそれは、と私は思った。
これでは小さい頃に見た猫型ロボットの世界ではないか。
唖然とした私に運転手は続けて
「もちろん人も働いてますよ、まぁ私もロボットではないですし」
「他の人は何の仕事をしているの?」
と聞くと
「まぁそうですね...ロボットが出来ない仕事ですかねぇ」
「例えば?」
「社会の大部分を組み立てる事はロボットがしますが、ある意味社会に関係ない事は人間がしますよ、例えばタクシーの運転とか」
そう言うと少し笑った。
私の「常識的」考えでは、みんな何かの仕事について、皆で社会を回していく。
そういう風に思っていたがここでは違うらしい。
車を走らせて少し経つと、運転手は
「着きましたよ」
と言う。
私はどうやら役所に連れてこられたらしい。
運転手は役所の窓口まで私を連れてゆき、車へ戻って行った。何をするつもりなのだろうか。
すると窓口に居る、ロボットがこちらを呼ぶ。
「こちらどうぞ」
滑らかに喋るこのロボットは私が知ってるそれとはレベルが違うらしい。
「あなたはこの町の新しい住人になりましたので、こちらに指紋を登録しますのでお願いします」
そう言うと、指を置く機械が出された。
役所での手続きを一通り終わらせると家まで送ってくれた。
帰る道中、私は運転手の名前を知らない事を今更ながら気づき聞いてみた。
「そういえば、名前聞いてなかったですよね?」
「私の名前は藤原と言います。あなたは住岡さんでしたね」
どうやら、知っているらしい。
この不思議の連続の中で慣れてきたのか、私は驚かなかった。
家に帰ると、自分の部屋に戻ってきた安堵感からか、お腹が空いた。
どうして死んでるのにお腹が空くんだろうとか考えながら、冷蔵庫をあさる。
どうやら外以外は死ぬ前と同じ私の部屋だ。
冷蔵庫にだって食料はあったし、昔からベッドに置いてる猿の人形だってある。
私はひと通りお腹を満たした後で机に置いてあった日記帳を開きペンを握った。
<私は死んだらしい。良く分からないこの世界の住人になった。街には人はあまり居なく、機械が支配している。私は何をするのだろう>
世界は丸いから歩き続ければきっと元の場所に戻る。でも元の場所に戻るには山だって谷だって超えなければならない。誰もそんな苦労はしたくない、だから人は新たな場所で産声を上げるのだろう。
「やっぱり夢だったか!」
私は喜んだ。
そう喜んだのも束の間、
ピーンポーンと鳴る。
「はーい」
私は玄関に出ると、あの運転手が居た。
「おはようございます、ゆっくり寝れましたか?」
そう微笑みながら言う運転手。
私は絶望に似た驚きで返事もせずにただ立っていた。
「では出かけましょう、案内しますよ。表で待っていますので」
と半ば強引に準備を促し、外へ出た。
外の世界に待っていたのは私の家の周りとは全然違う、と言うよりは私の知っている世界とは違う場所であった。
どうやら部屋だけは私の部屋を再現しているらしい。
街にあるものは私の知ってる世界とはなんら変わらないが、働く人はロボットが多く人はあまり居ない。
不思議に思い、街を案内するタクシーの運転手に訪ねた。
「人があまり働いてないみたいだけどなんで?」
タクシーの運転手はこの問いに少し笑いながら答えた。
「ロボットがやれば、人がやらなくていいではないですか、それだけの事です。」
理屈は分かる。だが、ロボットが働けば人の職が無くなるではないか。
その事も問うと
「まぁその通りなんですがね。なんせ人が働くというのは効率が悪いんですよね。」
酷く合理的な考えらしい。
この後言われた事を簡単にまとめればこうである。
<あなたの世界では人は働く事が普通とされている。それが間違いなんだ、働くのには意味があって、その意味を効率的にこなせるのは一握りの人と、多数のロボットである>
ということらしい。
異論はあるが、うまく言葉に出来ない。
更に運転手は
「ここでは物事の根本的な害は何かを考えて生きているのですよ」
と言う。
この世界には政治家は居るが、それは飾りで実質的にはデータを持つロボットが統計やらなんやらを出し、いかに効率的かつ「正しい」判断を下すらしい。
なんだそれは、と私は思った。
これでは小さい頃に見た猫型ロボットの世界ではないか。
唖然とした私に運転手は続けて
「もちろん人も働いてますよ、まぁ私もロボットではないですし」
「他の人は何の仕事をしているの?」
と聞くと
「まぁそうですね...ロボットが出来ない仕事ですかねぇ」
「例えば?」
「社会の大部分を組み立てる事はロボットがしますが、ある意味社会に関係ない事は人間がしますよ、例えばタクシーの運転とか」
そう言うと少し笑った。
私の「常識的」考えでは、みんな何かの仕事について、皆で社会を回していく。
そういう風に思っていたがここでは違うらしい。
車を走らせて少し経つと、運転手は
「着きましたよ」
と言う。
私はどうやら役所に連れてこられたらしい。
運転手は役所の窓口まで私を連れてゆき、車へ戻って行った。何をするつもりなのだろうか。
すると窓口に居る、ロボットがこちらを呼ぶ。
「こちらどうぞ」
滑らかに喋るこのロボットは私が知ってるそれとはレベルが違うらしい。
「あなたはこの町の新しい住人になりましたので、こちらに指紋を登録しますのでお願いします」
そう言うと、指を置く機械が出された。
役所での手続きを一通り終わらせると家まで送ってくれた。
帰る道中、私は運転手の名前を知らない事を今更ながら気づき聞いてみた。
「そういえば、名前聞いてなかったですよね?」
「私の名前は藤原と言います。あなたは住岡さんでしたね」
どうやら、知っているらしい。
この不思議の連続の中で慣れてきたのか、私は驚かなかった。
家に帰ると、自分の部屋に戻ってきた安堵感からか、お腹が空いた。
どうして死んでるのにお腹が空くんだろうとか考えながら、冷蔵庫をあさる。
どうやら外以外は死ぬ前と同じ私の部屋だ。
冷蔵庫にだって食料はあったし、昔からベッドに置いてる猿の人形だってある。
私はひと通りお腹を満たした後で机に置いてあった日記帳を開きペンを握った。
<私は死んだらしい。良く分からないこの世界の住人になった。街には人はあまり居なく、機械が支配している。私は何をするのだろう>
世界は丸いから歩き続ければきっと元の場所に戻る。でも元の場所に戻るには山だって谷だって超えなければならない。誰もそんな苦労はしたくない、だから人は新たな場所で産声を上げるのだろう。