あづ





初めから彼女は、どうにかして抱えていた憂さを晴らそうとしていたに違いない。頭でそんなことを考える狡猾な人ではないのだが、彼女の本能はそうする気満々だったのだ。


あづ は、ここぞとばかりに着飾った人の群れからはぐれて一人壁にもたれていた。


彼女の姿は、会場に入ってすぐに見つけられた。軽く緊張していた肩が、安堵でホッと下がったのがわかった。


彼女は、スーツでもドレスでもなく、黒のサマーセーターに細身のパンツで、それに濃い緑のブカブカしたサンダルを履いていた。ホテルの入り口で止められなかったのだろうかと心配になる。そういえば、彼女がヒールのある靴を履いているところを見たことがない。高校時代だって、入学式も卒業式も革靴は履かず、スニーカーだった。そういえば、わたしの結婚式のときはどうだったんだろう。


今日、あづ は来ないかもしれないと思っていた。同窓会とは言っても、第一期から今年68期になる新卒までが集まる大規模な会なので、宴というよりは、政治的な感じのする催しで、例年、各学年に10人程度しか参加者がなかった。


それに あづ は、愛校心なんて微塵も持っていないだろうし、同窓生と昔を懐かしむ姿なんていうのも想像できなかった。


それでもここへ来てしまったのは、半年前の別れ際になんとなく『また、同窓会で』という言葉を残してしまったからだ。あのときものすごく慌しかったとはいえ、なんで同窓会でなどと言ったのかと後悔した。しかし、彼女はこうして来ていた。愚かしいとは思いつつも、なんとなく、自分に会いに来てくれたような気になって、嬉しかった。



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