あづ
結局、ご歓談タイムの間ずっと、大石くんはわたしたちに、いや、あづ にひっついて離れなかった。もういい大人なので「あっち行ってよ」なんて言うこともできず、あはははは、おほほほほと笑いながら、3人で、おじさま方の演説会となったパーティー会場を抜け出した。というより、逃げたら勝手についてきた。しかし、ロビーを歩いていると、いつのまにか大石くんが先導していた。
「大石くん、抜けて大丈夫なの?」
「いいよ、別に。だいたい顔見たし」
わざとらしい笑顔で言う。頼むから意味を汲んでくれ。笑顔が引きつりそうになって、ぐっとこらえた。
それに、どうしてこの人の顔は、こんなにとってつけたような表情ばかり作るんだろう。ナチュラル、という言葉を筆で書いたような違和感がある。過去の因縁を抜きにしても、わたしは、この人が好きではないと思った。
「いいじゃない行こ行こ、あたしたちも元々途中で抜けるつもりだったしね、真理ちゃん」
笑っているのも疲れたのか、しばらく黙っていた あづ が顔を上げた。もちろん、そんな相談はしていなかった。今日会うまで、お互いがここに来ることも知らなかったのだ。しかしわたしは、そうあればいいなと心のどこかで願っていたし、あづ が大石くんの手前言ったことだとしても嬉しかった。
「そうだね、じゃ、どこへ行こうか」
「ね、あたし、知ってる店があるんだけど行かない?」
あづ の顔が再び笑顔になった。
先ほどよりいくらか楽しげになった あづ について行くと、駅から少し離れた通りに入っていった。通りの中程に、4階建ての黄色い雑居ビルがあり、あづ はその1階にわたしと大石くんを招き入れた。