あづ
そう言って、あづ が席を立った。大石くんは背を反らして見送っている。


何とも純情そうに見えてしまう。わたしだって、過去さえ知らなければ健気と言ってあげるのだけれど、彼が あづ にしたことはひどすぎた。


世に、ストーカーという言葉が社会に蔓延(はびこ)りはじめた頃のことだ。もう思い出したくもない数々の事件が、わたしを椅子の右へ右へと押しやる。





――最初は、いいところを見せようとしたり、真っ直ぐ告白したりと至って普通の恋する男子高校生だったのだが、告白を受けた あづ がはっきりと断ると、その行動は日毎に奇妙なものになっていった。現れては目の前で涙ぐみ、彼女が誰かと会話していると意地になって加わり、あづ の持ち物をこっそり持ち帰り、あづ の留守に家にやってきた。他にも恐ろしいことを次々とやってみせた。彼なりにショックだったのだろうと、同情したりもしたのだが、際限なくひどくなっていく行動に、あづ は疲れていった。他のことでは本当に普通の人に見えるのに、どうしてあんな風になるのだろう。


次第に彼女もヒステリックに大石くんをあしらうようになり、道理のように、傍目には普通に見える大石くんではなく、あづ がクラス内で孤立するに至った。みんな、腫れ物には関わりたくない時期だったのだ。





 あたしがあいつを壊したの?



その日、初めて会話をしたわたしに、あづ は言った。



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