男女七人夢物語
不意打ち過ぎたその言葉。なぜか私に集まる視線。
「えっ………」
何が。
そう言いたいのに、聞いていなかったとは言えなかった。
何か嫌な予感がする。
大したことない話なのだろうか?適当に頷けば良い話?
さっきとは違って、私は空欄の鍵かっこの中を必死で考えたけど、答えは出なかった。
「ちょっと、固まっちゃったんだけど。触れちゃいけないことだったんじゃないのー、加々見」
黒板前で斎京也は笑って加々見学を揶揄する。
「斎、加々見」
いつも通りの伊藤一葉は、なんの躊躇いもなくそれを口にした。
「木下が小説を書いてるかどうかは、後回しだ。今日は何をやるかを決める」
一瞬、理解できなかった。
「りょーかーい」
なんで。なんで知ってるの?
そして私は春先の三年になってすぐの放課後、加々見学に会ったことを、今さらのように思い出した。
放課後の図書室。
何も読み取れない顔。
『将来は小説家ですか?』
純粋な空間。
グルグルと加々見学の台詞が頭を巡った。頭が真っ白になって、どうすればいあか分からない。
「んじゃあ、第一候補は今言った劇だろ?でも、ステージ借りるの他のクラスとかぶってたらできねーから、他教室でできるやつ、第二候補として決めとこーぜ」
周りにはまた騒がしさが戻っているはずなのに、音が聞こえない。
「はい!教室にステージをつくる!」
「どうしても、劇が良いのな」
バレた。
「まあねー。だって、劇なんて小学生以来だし」
「一葉ねえの王子とか見いよね?」
バレた。バレた。バレた。
「一葉の姉御が王子とかガチじゃん」
「じゃあ、私お姫さまで!」
「えー?陽葵はお姫さまっていうより___」
嫌っ。
「ねー。陽葵はヒロインよりその友達くらいが似合うんじゃなーい?」
嫌だ、嫌だ、嫌だ____。
この時、もし私が平静だったら時田陽葵が張り付けた笑顔を作るのを見れただろう。
しかし、私は。
私はこの場から消え去ってしまいたかった。