男女七人夢物語
伊藤一葉
今回ばかりはお手上げかもしれん。
そう思い始めたのはあれから一週間経った現在である。
あれから木下雪乃には徹底的に避けられていた。いや、前から仲が良かったわけではない。用があったりすれば話す程度だ。
木下雪乃と行動を共にしている奴にも話を聞いてみたが、どうにも執筆について触れようとする度に上手くかわされるらしい。
どうやら相当触れられたくないことのようだ。
こっそり盗み見るとき、いつだって木下雪乃は黒板に見向きもせず一心不乱に何かを書いている。
それはきっと多分、誰が覗きこんでくるか分からない休み時間にはできないことなのだ。
なぜ執筆していることを隠したいのか。
そんな野暮な質問をするつもりはない。誰にだって隠したいことくらいある。
私にも人には言えないことがある。
木下雪乃の書いた脚本でクラス発表できたらいいと勝手に思っていたが、木下雪乃の気持ちを踏みにじるなら、やめた方がいい。
「一葉姉さんっ」
そんな考え事をしていると、クラスメートがこちらに笑顔で駆け寄ってきた。その女の子の髪は、先程私が結ったフィッシュボーン。
今から告白しに行くから可愛くしてほしいと言われたからやった。
そして、告白の相手は私の好きだった隣のクラス委員長。
「聞いてっ」
聞きたくない。
「あのね、一葉姉さんのおかげだよ」
そんなことない。
「俺も好きだって、付き合おうって」
もう___
「良かったな」
「うん!」
頷いてみせた彼女は、私に見せた中で最高の笑顔をしていた。
そうして自分の属しているグループの元へ駆けていく。
笑いながら良かったねと何度も言う彼女らの元へ駆けていく。
しばらく何か話した後、彼女らは一斉にこっちへ向いた。
「姉さん、ありがとねー」
私は笑う。
「いいや。なにもしてない」
平気で嘘をつく。
「じゃあ、また明日」
放課後私は呆気ないほどの二度目の失恋をした。