男女七人夢物語
「えっと」
さすがの斎京也もどう声をかけたものかと考えあぐねている。
人の慌てる顔を見ると自分は平常を保てるといつか誰かが言っていた気がする。今、それが分かった。
自分が、決めた道だ。
これ以上にまずいことなんていくらでもあった。
逆にこの状況はチャンスだ。
「木下雪乃。次の時間、サボらないか?」
最初の最後で神様がくれたチャンス。
どうやら、神様は恋する自分にはチャンスをくれないが、みんなの姉としての自分にはチャンスを与えてくれるようだ。
あの日の自分だったら、また皮肉な気持ちになっただろうが、今はなんだかそれが清々しかった。
私はどこまでも不敵な笑顔で、可愛さの欠片もなく、
「話したいことがあるんだ」
そう木下雪乃に手を差し出した。
向かったのは図書室だった。
しかし女の司書教諭の先生がいて、一瞬図書室にしたのは選択ミスだと思ったが、
「先生、一時間だけここ貸してください」
と、なぜか木下雪乃がそう言ったのに驚いた。そして、笑って頷く先生にも。
そのままズカズカと奥に進んで、その一角に腰を下ろした木下雪乃を見て、自分もそれにならい座る。
沈黙が落ちた。
とりあえずという風に、
「…良かったのか」
と、やっと私から出た言葉がそれだったことが、我ながら情けない。もともと不器用であるため言葉探しにはいつも苦労する。
だが、それに構うことなく木下雪乃は、
「私も、あのままクラスで話し合うのはいけないなと思って」
事もなさげに見つめ返してきた。
「私は脚本は書きません」
特筆すべきことのない女の子、だったはずなのに、彼女は言葉では表現できないという位置づけにその瞬間自分のなかで変わった。
何を考えているのか分からない。
多重人格にも思えるほどの印象の違いだった。
焦りを感じた。
「なぜ、書かないんだ?」
「自分の作品を人に見られたくないからです」
「じゃあ読まれないのになぜ書く?」
その質問に一瞬鉄壁が崩れたように見えたが、それは幻かと思えるほどの一瞬のことで、
「自己満足です。ただの趣味ですから」
その笑顔が、誰かに似ていた。