男女七人夢物語
「なに書いてんの?」
「わぁ!」
「なっ、そんなに驚かなくても」
「ごめん、ごめん。全然気がつかなかったからびっくりして」
言いながらこっそり私はノートを閉じた。
けど、それを見逃してなんかくれなくて、
「あー、先生の説教そっちのけでなんか書いてたもんね。そんな集中して何を___」
「宿題っ!宿題だよ。実はまだ全然終わってないんだよね」
「は?次の時間提出じゃん?」
あっ、良かった。全然疑ってない。
まあ、私の数学のノートが何色だったかなんて、覚えてるわけないか。
私もこの子の数学のノートの色なんて知らないし。
「そっそうなんだよ。ヤバイよね」
「そっか。じゃあ、私としゃべってたらいけないね。頑張って」
「うん。ありがと」
去っていく背を見送って私はそっと息をついた。
改めて、私は閉じたノートを開く。
そこに綴られた文字は嘘で塗り固めた、私だけの物語が無限の広がりを見せている。
だけど、分かってる。
現実的に、そんな簡単に先生との恋なんか始まるわけないし、この程度のことならどんなクソ教師でも言うだろう。
それに私の物語なんて、多分綺麗でもなんでもない。自己満足でしかないんだから。
才能なんか、ない。
そう考えると気分が沈んだ。なんだか自信がなくなってきて、新作を応募すると今日の朝決めたばかりなのに挫けてしまいそう。
大体、
「恋になんか落ちるか、あのクソ担任に」
もっとマシなネタがどっかに転がってないかと、私は現実に夢を探す。
綺麗で誰もが泣いてしまうような、そんな美しい私だけの物語と出会うために。
そして、その時。
「わっ!」
「うわ、ごめん!」
男の子が私にぶつかってきた。
でも、それは断じて誰もが泣けるような美しい物語じゃないんだ。
ぶつかってきたのは学園の王子様でも、もうすぐ病気で死んでしまう儚げな美少年でもなくて、
クラスでいつもバカ騒ぎしている坊主の男子なんだから。