男女七人夢物語



「ちゃんと行くから大丈夫だって。じゃーな」

「ん、また明日」


何にも考えてないような笑顔で陽葵が手を振って出ていく。


また、ひとりぼっち。


「三十分経って行かなかったら、武が迎えに来ちまうか」


俺はひとりぼっちになってしまったわけじゃない。


ひとりぼっちになろうとしているのだ。


「んー、かといって早めに帰るとババアが心配すっからなー」


武とは違う意味で厄介だ。


「ふむ、図書室でも行ってみっか」





「失礼しまーす」

図書室なんて来たこともなかったものだから、なんとなく宣言して入っていくと、図書室のカウンター内に座った木下と、その近くの机に座って何かを読んでいる井上と目があった。


「………いらっしゃい」

たっぷり見つめあった後、なぜか井上がそう言う。

思えば、この二人とは同じクラスなのにまともに喋ったことない。


しかし、この二人が図書室にいるということは、


「お前ら仲良かったんだな」


そういうことだろ。

そう思って言ったが、二人とも困った顔をするので、首をかしげる。


「………私は当番で、井上くんはいつも本を借りに来てくれるだけだよ」


結局、木下がそう言って井上は視線をそらした。不思議である。

注釈として述べておくと、お互いを友達と呼んでいいのか分からない微妙な関係、というものがあるのだが、俺はそういうのの分からない人種だった。


「んーまあ、いいや。ここって何時まで開いてんの?」

「えっと五時二十分くらい?」

「なんで疑問系?」


「木下さんの帰るバスの時間に合わせて閉まるからだよ」


木下に聞いたのになぜか井上が答える。


「へー、じゃあまあ、俺もそれまでここにいさせて」


と、言うと思いっきり顔をしかめた井上は、こちらの方を睨む。


「授業みたいにうるさくしないなら」


そのとても冷たい声に驚く。

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