男女七人夢物語



そして、またなぜ当番の木下ではなく井上に許可を取らなければならないのか。

助けてという風に木下を見るが、木下も木下で、


「うん。図書室では静かにお願いね」


まっすぐな瞳でそう言うんだから仕方がない。

俺が大人しくとりあえずその辺の椅子に腰を下ろすと、木下は何かを書き始め、井上は読書を再開する。


俺はさっきよりもひとりぼっちだった。


「………」

人が三人もいるのに、ペンが走る音と、たまにページがめくられる音が響くだけの空間。

俺はなぜか溺れてしまうような感じに襲われた。


息ができなかった。


「………なんか、読めば」

「え?」


あんなに険悪だった井上が何かを俺に言ったのは分かったが、それが何か分からなかった。


「だから、暇でしょ。なんか読めば」

「あっ、ああ」


促されて立ち上がるものの、本棚を見て戸惑う。


「あのさ」

「なに?」

「漫画ねーの?」


「………あるよ」

「マジ?」

俺はやっと息が吸えたような気がして、ふっと息をついた。多分井上に尻尾振りながら付いていったと思う。だが、


「ここだよ」

「おー、サンキューって………」

「なに?」

「いや、これ何?」

「お望みの漫画だよ」

「いや、“漫画で分かる歴史”を漫画とは言わねーんだよっ!」

「うるさい」


相変わらず冷たい視線をくれる井上に、俺は黙る。



井上はクラスではもの静かという印象しかなかったが、どうやら口を開くと思いの外刺々しい奴だったらしい。


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