男女七人夢物語



「なんでいきなりここに来たんだ」

「おいおい。図書室ってのはみんなのものだろ?」

「質問に関係ない」

「排他的だな」

「うん。最近自分でもそう思うよ」


迷いもなくそう言って俺を逃さない目。俺の事情なんて知ったこっちゃないくせに。

ろくに話したこともない井上に、俺の事情の何かを話そうという気は起きなかった。

ただ、居場所がある、息を吸える。そんな井上がひたすら羨ましかった。

だからだと思う。


「………自覚してるなら、なんで排他的なとこ直さねーんだよ」


自分だって独りになろうとしてるくせに、俺は井上にそう言ってしまった。

いつも独りでいる井上をバカにすれば、俺が息を吸えるわけじゃないのに、止められなかった。


「いっつも一人で惨めじゃねーのかよ」


言ってはいけない言葉だった。

井上を傷つけるのはもちろん、俺自身が言って傷ついた。

井上は片手が動かないから、無条件にみんな優しくするか無意識に避けてるかして、不自然な関係になってしまうこと、頭では分かってた。

人より孤独になりやすいのは、分かってたんだ。

そんなの俺と比べるまでもない。


でも、タイミングが悪かった。


今日、俺は初めて野球から逃げたんだ。野球しかやってこなかった俺は、そうすることで息を吸おうとしたのに、溺れそうになって、どうしようもなくて。


「惨めだよ」

そう井上に言わせてしまった。


「………」


言わせたのは俺なのに、掛ける言葉がなかった。


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