男女七人夢物語
そんな俺の心情を察したかのように、井上奏太は微笑む。
「でも、そんなの最初っからだ」
「最初から?」
確か、井上は小学校の頃までは天才ピアニストとして名を轟かせていたはずだ。
「ピアノを弾いても、弾かなくても、僕は一人で惨めだったよ」
才能がない。価値がない。
その言葉が恐くて練習しても追いつめられている気しかしなかった。
周りはがんばれがんばれと言うばかりで助けてくれる人など皆無だったのだと、井上は笑った。
それが、天才と言われた男の子の正体だった。
何も言えなかった。
俺は、ここ最近ずっと才能がないことを言い訳に逃げることを考えていたのだから。
何も言えない。