男女七人夢物語
「ん?」
「前から思ってたんだけど」
その前置きに、僕は内心焦った。
まさか、僕の行動に気づいてしまったのだろうか。
気持ち悪いからやめろと、そう言われるのを覚悟したとき、
「本の趣味、似てるよね」
と、やはり言われた。心臓がドクドクと跳ねる。
「そっそうかな?」
「うん。これ、私もちょっと前に読んで………」
はたと気がついたようにそこで木下さんは言葉を止めた。
バレたか。
僕は観念した。
こうなったら、自白しよう。
「えっと」
「ごめん!」
言いかけた何かは、木下さんの謝罪に遮られた。
ごめんって、なんの謝罪?
もしかして、この瞬間僕は呆気ないほどに振られたのだろうか。
困惑した僕は、何を言うのが正解か分からなくて、
「………どうして、謝るの?」
と、素直に聞くことしかできなかった。
「えっと、あの私が井上くんの本の趣味を知ってるのは、井上くんがいつも借りていってくれるからで」
「うん?」
「私は、井上くんのストーカーとかじゃないけど、嫌だったらごめん」
………誤解で謝らせてしまったけど、バレたらストーカー認定されるのはよく分かった。