男女七人夢物語
敢えて付け加えておくと、僕はクラスの女子は木下さん以外こんな呼び方をしているのであって、親しくもなんでもない。
「えっと、井上くん…?あーーーっ!」
案の定戸惑いを隠せないときっちゃんは、自分がジャングルジムの上で仁王立ちしていることにこの時初めて気がついた。
慌てて降りてくる姿はなかなかに様になっていて、普段もあんなことをしていることがうかがえた。
「あの、井上くん」
「ときっちゃん?」
公園前で立ち止まったままの僕に駆け寄ってきたときっちゃんに、微笑をたたえて首を傾げてみせる。
すると、いつも笑顔のときっちゃんは少し不思議そうに、
「私、時田陽葵っていうんだけど」
と、言外になんでときっちゃんなのだと聞いてくるので、
「時田だから、ときっちゃん」
そう何の説明にもならない答えを返した。
だけど、ときっちゃんはそれに気を害した風もなく、
「初めてそんな呼ばれ方した」
と、笑う。
そういうところが、ときっちゃんだ。
「まあ、井上くんにそう呼ばれたって言うのが、一番の驚きなんだけどね」
無邪気な笑みを浮かべたときっちゃんは、そのまま何でもないことのように言った。
「そういえば、さっきの見てたー?」