男女七人夢物語
「さっき?」
「まあ、ジャングルジム登ってるだけでも変か」
「ジャングルジムは登るものだからいいんじゃない?」
僕が何の気もなくそう言うと、ときっちゃんの笑みに一瞬、ほんの一瞬だけ影がかかった。
でも、僕にはそれがなぜかなんて分かるはずもなく、更にはそんなこと気にすることでもなかったので、僕は笑みを作るに止める。
「じゃあ、また」
「えっ、もう帰るの?」
「帰らないけど、ちょっと散歩したい気分なんだ」
「ふーん。じゃ、私も付いていっていい?」
何を思ったのかときっちゃんはまだ僕に構うようだ。
「そういえば、さっきなんで呼び止めたの?」
仕方がないので歩きがてら、僕はときっちゃんに聞いてみた。
「えっ?」
「さっき、僕を呼び止めたでしょ。『そこの少年!』って」
「………なっ、なんとなく井上くん見かけてテンション上がっちゃって。あっ、変な意味じゃなくて、珍しいからここ通るなんて。誤解しないで」
さっきの木下さんレベルの慌てぶりだったその弁解に、なんだかおかしくて僕は吹き出してしまった。
「なっ、笑うことないでしょ」
「いや、ときっちゃんを笑ったわけじゃなくて、思い出し笑いだよ」
それでも笑いのおさまらない僕に、本当かと訝しげにこちらを見るときっちゃん。
でも、なんだかとっても笑いたい気分だったから、ときっちゃんそっちのけで笑った。
世界中のみんなに自慢したい気分だった。
木下さんと少し仲良くなれたのだと。本当に世界中に。
「………井上くん」
「ん?」
「井上くんの笑いは、清々しいね」