男女七人夢物語


「さっき?」

「まあ、ジャングルジム登ってるだけでも変か」

「ジャングルジムは登るものだからいいんじゃない?」


僕が何の気もなくそう言うと、ときっちゃんの笑みに一瞬、ほんの一瞬だけ影がかかった。


でも、僕にはそれがなぜかなんて分かるはずもなく、更にはそんなこと気にすることでもなかったので、僕は笑みを作るに止める。


「じゃあ、また」

「えっ、もう帰るの?」

「帰らないけど、ちょっと散歩したい気分なんだ」

「ふーん。じゃ、私も付いていっていい?」


何を思ったのかときっちゃんはまだ僕に構うようだ。


「そういえば、さっきなんで呼び止めたの?」

仕方がないので歩きがてら、僕はときっちゃんに聞いてみた。


「えっ?」

「さっき、僕を呼び止めたでしょ。『そこの少年!』って」

「………なっ、なんとなく井上くん見かけてテンション上がっちゃって。あっ、変な意味じゃなくて、珍しいからここ通るなんて。誤解しないで」

さっきの木下さんレベルの慌てぶりだったその弁解に、なんだかおかしくて僕は吹き出してしまった。

「なっ、笑うことないでしょ」

「いや、ときっちゃんを笑ったわけじゃなくて、思い出し笑いだよ」

それでも笑いのおさまらない僕に、本当かと訝しげにこちらを見るときっちゃん。

でも、なんだかとっても笑いたい気分だったから、ときっちゃんそっちのけで笑った。

世界中のみんなに自慢したい気分だった。


木下さんと少し仲良くなれたのだと。本当に世界中に。


「………井上くん」


「ん?」


「井上くんの笑いは、清々しいね」


< 43 / 75 >

この作品をシェア

pagetop