男女七人夢物語


「佐山先輩?」


練習終わりベンチに座り込んでいると、ふと上から声がかかった。


今年一年にしてベンチ入りを果たしている後輩だ。


「どうしたんですか?元気ないみたいですけど」


その言葉からは純粋な心配だけが感じ取れた。そこがこの後輩の最大の利点なのだろう。


俺は全てに疲れたような顔をして首を横に振ったのだろうと思う。


「いや、なんでもない」

その声は説得力のない弱々しいものだった。


言い訳を敢えてするのならば、この後輩にだけは今話しかけてもらいたくなかったのだ。


この後輩は苦手だ。


野球部に限らず運動部では一年から飛び抜けて上手い奴は、同輩にも先輩にも疎まれることが多いと思う。

そして、大抵それは大した上手くない奴だ。


まあ、芸能人でいうところの有名税のようなもので、仕方がないことだと割りきってしまえばそれで良いのだが、しかし狭い学校という世界で、それを無視しろというのは案外難しい。


あいつは調子にのっていると一度認定されれば、後はあっという間にその噂が広まる。


狭い学校という社会でのそれは、思春期であることを踏まえなくても、辛いことであるのは明白だ。


しかし、目の前の後輩はその辺の心配があまり必要のない人種のように思える。


彼の嫌味のない性格というか、誰からも好かれる性格、強いては憎めない性格か。まあ、なんであれ、それらは意識しても手に入るような代物ではない。



それはここ数年で自分が一番感じていることだった。


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