男女七人夢物語
俺は才能がなかった方が幸せだったのではないかと、今さらのように思う。
そんな考えても仕方ないことくらい分かっていた。
でも、そんなことかんがえてしまうくらいに、俺は客観的に見たって自分は散々下手な奴らに疎まれながらも踏ん張ってきた人種だった。
だからこそ、上手くても万人に好かれる彼のような人種が羨ましい。
そう、
「斎先輩のことですか?」
斎京也のことを何の考えもなく俺に言ってくるこの後輩が、心底羨ましい。そして今は憎らしい。
「斎先輩、どうしたんですかねー」
そう能天気そうに言うこの後輩は、きっと野球部のエースにはなれても、キャプテンにはなれない。
俺が言えることじゃないが、人の痛みの分からない人間にはキャプテンは向かない。
ある程度自分の実力と他人を比べて劣等感を抱いたことのある奴の方が、チームの状態には敏感だ。良い意味でも悪い意味でも全体を把握している。
俺も達也に誘われたまま少年野球チームに入った時は、劣等感の塊だった。周りは同い年だったけど、曲がりなりとも野球をずっとやってきた人間だったし、俺は明らかに初心者だった。
それこそ、達也に誘われるがまま入ってしまった自分に嫌気がさした。
もしかしたら、野球が上手くない自分は京也に見放されるのではないかとも思った。
そうでなくても、チームのみんなは俺の存在を疎ましく思っていただろう。なんで京也は野球経験もない奴を率先してチームに引き入れたのかと、疑問に思っていたはずなのだ。
そうして、俺はチームの空気に敏感になっていった。
周りになんと思われているのか、転校生の俺には命に関わる問題と言っても過言ではなかったのだ。