男女七人夢物語
しかし、京也のつけてくれた個人練習の成果か、俺はだんだんと上手くなっていった。京也は手放しでそれを喜んだが、俺はまた別の問題にさしあたっていた。
俺がベンチに入るということは、誰かが抜けるということであったからだ。
それはもう恨まれた。
リーダー格の京也が俺の一番の味方だったから表立っては何もなかったが、小さな嫌がらせは度々起こった。チームも雰囲気的に二分された状態に陥っていた。
俺はどうすればいいか分からなかった。
ある日、それに耐えかねて京也に全てをぶちまけたことがある。
京也は俺の話を全部黙って聞いてくれた。けれど、そのあと『それで?』とそう言った。
突き放すような冷たい声だった。
俺は京也のことを好いていたし、京也も同じだと思ってはいたが、今思えば京也は決して俺に甘いわけではなかった。
それは京也が個人練習に付き合ってくれた時も顕著であり、小学生だった俺には今振り返ってもかなりハードな練習だったと思う。
けど、その厳しさもあの時の冷たい声に比べれば何でもなかった。
呆然とした俺に京也は続けた。
『お前はどうしたいんだ?』
何を聞かれてるのか分からなかった。ただ、答えを間違えれば一生京也は俺と口を利いてくれないような気がしたのは覚えている。
『お前は何のために練習してたんだよ?』
何のために。
咄嗟に言葉が出なかったのは、京也に恐れをなしていという理由だけでないのは明白だった。
俺の行動に人に言えるような理由なんてなかったのだ。
流されて、周りを伺って。上手に世間を渡ろうと躍起になっていただけで、本当の俺自身はどこにもなかった。