男女七人夢物語
時田陽葵
それからいくつかの噂が校内に流れるようになった。
まず、人気者の斎京也が野球部を辞めたという話。
それから、今度の学祭に3年生の有名人がある劇に揃いにも揃って出ること。
その有名人たちが、放課後の図書室に集まっていること。
しかし、その真相は誰も掴めていなかった。
なぜなら、
「木下さん」
「………」
「おい、聞いてるかー」
「二人ともうるさい」
その噂の中心にいる木下雪乃がとりつく島もないからである。
それを囲むようにして立っている斎京也と伊藤一葉は顔を見合わせて苦笑いする。
それだけでも異様な感じがするが、それをじっと遠くから見つめる井上奏太も正直なところ怖い。
さらに、あれだけ仲の良かった斎京也と佐山武が全くしゃべらなくなったのも不思議だ。生徒会長の加々見学もたまに木下雪乃にちょっかいを出す。
何にせよそんな奇妙な光景が日常化してきている。以前だったら考えられない。
しかし、それで自分も何か変わったかといえば、そうでもない。
「ひまりー」
「えっ、あー何の話だっけ?」
「もー。昨日のお笑いグランプリ見たかって聞いたの」
その時間は途中から借りてきた海外ドラマを見ていたから、結論から言えばそんなに知らないけど。
「あー、面白い人たくさんいたよねー」
「そうそう。最後の方のやつで、いきなり動物のマネしだすやつ、面白かったよね!」
「あー、あった!あれ、笑いすぎて棒アイス食べてたのに落とした」
「バカじゃん」
そうだね。本当に私がアイスを落としたのだったら。
「ねー、ひまりのモノマネ見たいなー」
「じゃあ、お手本見せて?」
「えー?私には出来ないよー」
ああ。また始まった。