男女七人夢物語
まあ、そんなことはもう誰もが知っていたし、反論がある人もいなかった。
問題は脇役の話だった。
物語には三人の脇役も登場することになっているようで、それを決めたいと木下雪乃がちょこんと頭を下げた。
脇役は次の時間に立候補または推薦で決まることになった。
正直迷った。
いつものノリでやりたいって言い出すことに、周りが違和感を抱くことはないとは分かっていた。ただ、主要人物の横で脇役をやってる自分を自分がどう思うかが問題だった。
劣等感に苛まれながら演技することには抵抗がある。
だんだんと気持ちがやらない方向に傾いていた。
「じゃあ、やりたい人は手をあげて」
予想外にも、最初そう伊藤一葉が言ったとき手をあげた人はいなかった。
推測するに、主要人物に決まっている人が人なので、手を上げにくいのだろう。
人気者たちに近づきたいから、手を上げるのだと思われたくないとか。
くだらない。
私が言えたことじゃないけど。
「んー、どうするよ。これ」
斎京也の言葉に伊藤一葉は肩をすくめる。
「私は二役なんてできないよ」
「うん、俺も」
少しずれているコメントに誰かが手を上げた。
「誰もいないんだったらぁ、私やりたいですぅ」
校則違反の色付きリップで艶が出た唇がそう言葉を繰り出す。
その次の瞬間、じゃあ私も俺もなどと立候補が出る、出る。
正直、うんざりだ。
こんな脇役たちと一緒になんて演技したくない。やっぱり、やめよう。
「ねー、ひまりアレやればー?」
「へっ?」
「ピエロの役って、ひまりにピッタリじゃん!」
何をもって、そんなこと言ってるんだろう。
「きっと、ひまりがピエロやったらメッチャ笑ちゃうー」
嫌だ。
「あー、確かに。よし、陽葵やってくれよ!」
笑顔がひきつる。