男女七人夢物語
嫌だ。
「なっ、劇とかそういうの私には出来ないよー」
こんな私のこと何にも知らないくせに分かったフリする周りとか、勝手に思い描いた時田陽葵を押しつけてくるとことか、大嫌いだ。
「できる。できるー!異論ある人いるー?」
この流れで異議を唱える人なんていないに決まってる。
「ほらー!!はい、決定」
「えーーー?」
嫌だ。それは心から思ってることだ。
なのに、私の口角は下がらない。無意識に、笑顔を作ってしまう。
本当は、そんな自分が一番嫌いだ。
他人のことは平気で散々毒づくクセに、自分が他人にそうされているのは怖い。
状況を変えたいなら自分が変わらなきゃいけないのに、周りを都合よく言い訳にする。分かってくれないと。
人間、そんなもんだ。
そう思うのに、そんな人間にはなりたくなくて。
ぐるぐると堂々巡り。
「じゃあ、残りもこの調子で決めていこうぜ」
斎京也がそう言う。
隣の伊藤一葉は私の方をなぜか見つめてきていて、加々見学は高みの見物といった体で薄ら笑いを浮かべてる。
気まずくはあったが、別にどうってことない。自然な程度に視線をそらす。
井上奏太は関心がそれたのか台本らしきものを眺めていて、佐山武いたっては興味なさげにスマホで野球観戦をしていた。
そこまで観察したが、私はただ一人に意図的に目を向けていなかった。
木下雪乃。
私がピエロ役になったこと、木下雪乃はどう思っているのか。それだけは知りたくなかった。