男女七人夢物語


「実は、聞きたいことがあって」


木下雪乃の最近のイメージとは違う、少し前までの大人しい女子ぽい声。今更、猫かぶり直してと思う私は大概性格が悪いが、


「なんだろー」


私はヘラっと適当にそう返す。私のこれはいつものこと。木下雪乃みたいに多重人格を表に出すことはしない。


人間誰でも他人から見れば多重人格だが、上手く隠せる奴が世渡り上手なのだ。


「えっと、役引き受けてくれてありがとう」

「えー?面白そうだからやりたいと思っただけなのに、大袈裟だなー」


ヘラヘラ、ヘラヘラ。

いつも通り、なにも変わらない。なのに、木下雪乃の視線が痛い。


「………」


「ん、どーしたの?」

おどけて見せるけど、木下雪乃はそれでもこちらを見透かすような瞳をこちらに向けてくる。


苦手だ。


そう思ったのを誤魔化すようにまた何か口にしようとした時だった。


「………ありがとう」


ポツリとその言葉が落ちてきた。



胸の、ど真ん中に。


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