男女七人夢物語


「は…?」


「嫌だったのに、引き受けてくれてありがとう」


「だから、嫌じゃないって」

 
「うん、でもありがとう」


なんなんだろう。

何しに来たんだろう。


意味が分からなかった。

ついでに、木下雪乃が歪んで見えた。私の目の調子もおかしい。


「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだけど」


泣いてない、という言葉はなぜかつっかえて出てこない。今声を出したら、それとともに、目から溢れてきそうでダメだ。


なんで、一番知られたくなかった木下雪乃に、私が感じていたこと全てひっくるめて、ありがとうと言われているんだろう。


私のこと、本当に理解してくれる人なんていないはずなのに。


「あの、それで申し訳ないんだけど、お願いがあって」


「………」


「時田陽葵さん、あなたの舞台私たちに貸してください!」


「………私の舞台?」


「うん。奏太くんに聞いたんだけど、ここで時田陽葵さんが演技してるって。私たち、今まで図書室で練習してたんだけど、それが漏れて図書室で練習しづらくなってたの」


「まあ、それは分からなくもないけど、貸せる舞台なんてないよ」


掠れた声が少し恥ずかしかったけど、そう言い切った。


「あるよ。この公園!」


< 73 / 75 >

この作品をシェア

pagetop