お気の毒さま、今日から君は俺の妻
そして天宮は、いつものにこやかな表情で澄花に視線を向ける。
「――大丈夫?」
「え……?」
一瞬なにが大丈夫なのかと考えたが、おそらく天宮は澄花が休んだことを知っているのだろう。実際、天宮は全従業員のプライベートや社内での働きを把握しているとまことしやかに噂されているくらいなのだ。
(本社だけで従業員は数百人いるんだけど……天宮さんならありそう)
「はい。仕事は続けるつもりですから、大丈夫です」
「そう。ならよかった。なにかあったらいつでも相談して」
そして天宮はぱちんとウインクして、かろやかに踵を返し休憩室を出て行く。
「ありがとうございます」
(一社員を気遣ってくれる……相変わらず立派な人だな)
さすが副社長だと澄花は感心しながら、深々と頭を下げたのだが、
「きゃ~んっ! 今の見ましたかっ、先輩っ♪ 天宮さんの貴重なショットでしたよっ! 心の目にしっかりとやきつけましたぁ~!」
珠美が目をハートにしてピョンピョン跳ねるのでつい笑ってしまった。
「タマちゃんったら……さっき結婚式の二次会でイケメンゲットですって言ってたのに」
「天宮さんは特別なんですよ~! だって私の理想の王子様なんですもんっ!」
「理想の王子様?」
「そうでーす」
珠美はウフフと笑って、そして腕時計に目を落とした。
「そろそろ戻りましょうか、先輩」
「あ、そうね……うん」
澄花は促されるがまま、休憩室を出ることにした。