お気の毒さま、今日から君は俺の妻
王子様の思い出と

(理想の王子様かぁ……)


 パソコンでの入力作業をしながら、澄花はぼんやりと珠美の言葉を反芻していた。

 十歳で両親を喪い、手を差し伸べてくれた優しい丸山夫妻と、その息子である春樹。
 澄花にとって、春樹はまさに王子様だった。


(いつも優しくて、大きくて……私を痛いことや悲しいことから守ってくれる、お兄ちゃんで……)




 澄花が事故の後遺症で記憶の大半を失ったとわかったとき、祖父母は泣いて悲しんだ。


『親を忘れるなんて……!』と、澄花の前で泣いた。


 もちろん祖父母は澄花を叱ったわけではなかったが、その様子を見て、幼い澄花は自分が責められたような気がした。


『わすれたわたしがわるいんだ……』


 何度も何度も、ひとりで生き残った自分を憎み、食事が喉を通らなくなった。

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