お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 昼でも夜でも、時間は関係なく、目を閉じるとまぶたの裏に両親の形をしたぼんやりしたお化けが映った。
 お化けが自分を冷たくて暗い所に連れて行こうとしているのだと思いこんだ澄花は、恐ろしさのあまりトイレにも行けず、おねしょをするようになった。

 カウンセラーや心療内科にもかかったが、状態はあまりよくはならなかった。

 そんな風に、心を衰弱させていた澄花の側にいてくれたのが、見ず知らずの高校生――春樹だった。

 都内の高校のブレザーを着た彼は、小学生の澄花からはじゅうぶんお兄ちゃんで、大人に見えた。けれどふわふわの茶色い髪に、少したれ目の同じ色をした瞳は優しそうで、背は高くもなく低くもなく、人の好さが前面に出ている優しい雰囲気に、ほかの大人のような恐怖は覚えなかった。

 彼は緊張して布団をかぶったままの澄花に向かって、『澄花ちゃんが生まれたときに、何度か会ってるんだよ。でも赤ちゃんだったから、覚えてなくて当然だよね』と笑いかけ、それから毎日、学校が終わった放課後に面会に来るようになった。


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