お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 面食らう澄花だが、龍一郎はそのまま顔を近づけて、澄花の額に口づけると、

「毎回煽られて、火をつけられるこっちの身にもなりなさい……体がいくらあっても足りない」

 と、熱っぽく囁いた。


 そして結局、澄花は昼日中から抱かれて――うとうととベッドでまどろみながら、自分を抱いて目を閉じている龍一郎を見つめていた。

 出会いから結婚まですべてが超特急だったが、こうやってホテルから葛城邸に住むことになって、ようやく結婚生活のスタートに立った実感がわいてきた。


(いよいよ今日からふたりで暮すのよね……この人が私の夫……なんだ)


 結婚がどういったものか、澄花はまったくわからない。

 春樹を追いかけまわしていた十代の頃は、澄花にとって結婚はいつか迎えるハッピーエンドだった。
 だが春樹を失ってから澄花の人生は止まってしまって、気が付けば二十五歳の大人になり、半ば勢いでなにも知らない葛城龍一郎という男と契約結婚をして、激しく求められ、愛され、抱き合って眠っている。


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